第26話「カツラ」  百物語2012本編

語り:雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ
83 :代理投稿 ◆ztxSLaq9Ok :2012/08/18(土) 22:42:53.99 ID:HvFrBJMW0
雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ 様 『カツラ』

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後輩の話。

大学生の時分、彼は警備会社でバイトをしていた。
あるデパートで物産展の警備に駆り出された時のこと。
彼の持ち場にの近い仮設厨房で、小さな騒ぎが持ち上がった。

洗い物をしていたシンクが詰まってしまったというのだ。
待つほどもなく、設備担当の人が来て、仮設の汚水管をバラし始めた。
シンクからパイプシャフトまでの間に詰まり物があるらしく、
中を掃除しようという腹だったらしい。

管が硬い音を立てて外れた瞬間、端から何かがズルッとこぼれ出た。
黒くて長い、髪の毛がびっしり。
その場に居合わせた者が仰天していると、髪の毛はあっという間に管の中へ
吸い込まれて姿を消した。

ただ一人落ち着いた様子の設備担当者は、元通りに管を繋ぐと、
何事もなかったように水を流してみた。
問題なく流れていく。管詰まりは解決したようだ。
平然と去る担当者以外は皆、どうにも釈然としない面持ちだったが、
物産展の開業中はとにかく忙しい。
誰ともなく仕事に戻り始め、すぐにその騒ぎは忘れられた。

その晩、仕事が終わってから警備会社に戻った折に、この話を上司にしてみた。
「何で仮設の管に、あんな大量の髪の毛が入ったんでしょうね?」
そのデパートで長く仕事をしている上司は、驚く素振りも見せずに言う。
「それ、多分シンクから流したんじゃなくて、下から這い上がってきたんだよ。
 あの近辺の汚水管には、昔から鬘が居着いているんだ」

84 :代理投稿 ◆ztxSLaq9Ok :2012/08/18(土) 22:43:56.74 ID:HvFrBJMW0
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「へ? カツラ?」驚いてそう問い返す。

「いや、本当に鬘かどうかは誰も知らないが。
 でもあそこで下水が詰まるといつも、その鬘みたいなモノが見つかるんだ。
 サッとすぐに逃げ出すから、捕まえられたことはないらしいがな。
 以前に専用の掃除ブラシを奥まで突っ込んでみたところ、みっしりと黒髪が
 絡みついて引き出されてきたそうだ」

別の上司が割って入る。
「あの通りの地下共同溝に入っている時にさ、時々ゴツンゴツンって、
 汚水管の中を移動する音を聞いた奴なら結構いるぞ。
 勾配を遡っていたって話もある。
 まぁ得体の知れないモノには、極力関わり合いにならんことだ。」

上司二人はうんうんと頷いていた。
後輩は「何かヤだなぁ」と思ったが口には出さず、卒業するまでその会社に
お世話になり続けたのだという。

【了】