第5話「通り道」  百物語2012本編

語り:ダメレオン ◆aKQ2SJ2lbM
20 :ダメレオン ◆aKQ2SJ2lbM :2012/08/18(土) 21:29:01.73 ID:n4Eb4PA50
第5話 「通り道」

蒸し暑い夏の夜 、窓を 全開にしていた。
窓の外1メートル先には隣家の白い柵があり、朝顔の蔦が絡まっている。その柵の後ろには白い塀があった。
窓の前に置いたテレビを見ていると、視界の隅を何かが横切った。
視線を移すと、隣家の柵の後ろを黒いナマコのようなものが移動していた 。
驚いてよく見るとそれは黒猫だった。
それだけだったら平凡な風景だったのだが、その黒猫は忍者服を着ていたのだ。黒猫に黒い忍者服。

隣家が新たに飼い始めた猫なのだろうか?
近辺で黒猫を見掛けたのは初めてだった。
飼い主のエゴであんなもの着せられて可哀想だなと思ったのだか、可愛いいのも事実である。
黒猫は悠々と塀の上を歩き、闇に消えていった。

翌日、あの猫にまた会いたいなと思った僕は、お菓子タイプのキャットフードを買った。
夜になって、 隣家の人に見つからないように窓 から上半身を乗りだし、手を伸ばして、柵の後ろの白い塀の上に、 キャットフードを置こうとして気が付いた。

それは塀などではなく、厚さ数ミリの白いプラスチックボードが、柵に立て掛けられているだけだったのだ。
その後、あの猫を見掛けることはなかった。

【終わり】