第86話「雲」  百物語2012本編

語り:姑 ◆100mD2jqic
296 :姑 ◆100mD2jqic :2012/08/19(日) 05:37:34.59 ID:LCaSceNs0
『雲』 (1/2)

小学校5年生で、念願の一人部屋になった。
たまに模様替えをしていたけど、窓際にベッドを置く形で落ち着いて
以降中学校3年生までずっとそこで寝ていた。

その数年間、しょっちゅう夜中に目が覚める。
時計を見ると大抵深夜2時~2時半頃。
「またこの時間かぁ」
そして下の階から物音がする。
下は応接室。そこから自宅に併設されてる会社へと繋がる。
少し古い上に建付の悪い家なので、応接室の扉は開閉時、独特の音がする。
  ”くぅおん…ぱたん” ”ふおん…ばむっ”
「ああ、応接室の扉から、会社へ誰かが移動してる」

しかし会社の扉のすぐ脇には金庫があるため、夜間は必ず警報機が
作動させてある。
ちょっと物を取りに会社側へ入ると、物凄い警報音が鳴っていつも大変…
…なのに、なぜか警報は鳴らない。
  ”くぅおん…ぱたん” ”ふおん…ばむっ”
  ”ふおん…ばむっ” ”くぅおん…ぱたん”
「こんな夜中に何度も行ったり来たり…泥棒?!どうして警報が鳴らない?
明日の朝、大変な事になってるんじゃ…」

しかしいつも、翌朝には何事も無く。

高校進学のため実家を離れた。

297 :姑 ◆100mD2jqic :2012/08/19(日) 05:39:37.11 ID:LCaSceNs0
(2/2)

数年後、大学生になってからだったか、正月に帰省した時の事。
大晦日元旦恒例行事の、神棚2つ & 仏壇へのお参りをしていて気付いた。

応接室にある神棚 ─ 『雲』が貼られていない。

神棚は当然ながら踏み付けて生活する訳にはいかないので、上の階が存在しない
場所に設置するか、そうでない場合は『雲』や『天』と書いた紙を神棚の上の
天井に貼り、直接上の階から踏み付けてはいませんよ、という形にするそうだ。
それが、無い。

この上は…そう、かつて自分が使っていた部屋。
そして、ベッドを置いていた、まさに、枕の位置。
数年間ずーーーーっと、神棚の上にどっかり頭を置いて寝ていた訳だ。
なんという事を!!!

そんな失礼な事を年単位で続けていたのに、怪音だけで済ませてくれていた神様、
本当にすみません…そしてありがとう…気付かなくてごめんなさい…。

皆様も『雲』には、くれぐれもお気を付け下さい。

【了】