第87話「祖父にもらった時計」  百物語2012本編

語り:ithuki◆JjVa38i/wo
299 :代理投稿 ◆nqnJikEPbM.8 :2012/08/19(日) 05:43:01.19 ID:jvZ3IDbu0
ithuki◆JjVa38i/wo 様 『祖父にもらった時計』

私が就職が決まったしたときに
祖父から、小さくてかわいい、でも立派な腕時計をいただきました。
よくがんばったな、と一言の手紙をそえて。
寡黙ですが、厳しい祖父でした。
後にも先にも、褒められたのはそのときだけでした。

家を出て、東京に暮らし仕事をはじめてからも
その腕時計は欠かさず身につけ、日々励んでいました。

数年たったある日の仕事中、急に時計がとまっていました。16:01分。
おかしいなーと思っていると実家から電話が。祖父が急逝。
心筋梗塞でした。
突然の出来事に頭が真っ暗になりました。

実家にかけつけて、祖父と対面。
昔とかわらない祖父が、そこに眠っていました。

亡くなった時刻は16時01分。時計がとまった時間でした。
口数が少なく、厳しかっただけに、私に何か言い足りないことがあったのでしょうか。
それとも、私のところにきてくれたのでしょうか。

それから10年近く、この話を思い出して書きながら、
懐かしくなって時計を倉庫から引っ張り出してきたら
16:15分になっていたんですが・・・
祖父も、新たな時を歩みはじめたんですかねえ。

【完】